【vol.61】ブラックミュージックからJポップまで愛される”Just the Two of Us進行”(おしゃ)

最近、SNS上で人種差別問題についての画像や動画、#BlackLivesMatterというハッシュダグをよく見かけることはないでしょうか。人種差別問題は今にはじまったことではないですが、アメリカのミネアポリスで起きた事件をきっかけに、全米では抗議のデモが広がっています。また、先日6月2日には米音楽業界が連携して「Black Out Tuesday」と称した差別に対する抗議運動が実施されました。

Apple Musicでも、背景が黒一色になり、ブラックミュージックを流し続けるラジオを配信しました。そんなジャズやソウル、R&Bなどのジャンルに展開されるブラックカルチャー、ブラックミュージックに影響を受けた音楽家たちは数えきれません。皆さんの好きなアーティストの方々が影響を受けた音楽を、インタビュー記事などで調べてみてください。ブラックミュージックを聴いてきたアーティストも少なくないと思います。

アメリカでのブラックミュージックの誕生は、黒人の奴隷制度とともにあり、17世紀にまで遡ります。それから時は経ちましたが、黒人への差別が消えていないことが現状です。「その人々が創り出した音楽が素晴らしいから」という理由が差別をなくすべき理由ではなく、基本的人権は守られるべきであるから、差別はなくさなければならないと考えています。しかし、社会問題に向き合うきっかけが、音楽や映画など自分の愛する文化であっても良いと思います。人種差別問題やブラックミュージックについてはここでは書き尽くせないので、今回はそのほんの一部ですが、ある1曲と音楽の繋がりについて紹介します。

「Just the Two of Us」

それは日本にブラックミュージックを浸透させた1曲です。ジャズ・フュージョン界を代表するサックス奏者グローヴァー・ワシントン・ジュニアとソウル界の父ともいわれるビル・ウィザースが歌う「Just the Two of Us」(1980年)です。この曲は1982年にグラミー賞のR&B部門を受賞するなど、邦題「クリスタルの恋人たち」として知っている人もいるのではないでしょうか。注目する点は、この曲のコード進行です。コード進行とは、和音の流れであり、曲の雰囲気を作る材料のようなものです。Just the Two of Us進行は、後に数え切れないほどの曲に使われており、Official髭男dism「Pretender」やあいみょん「愛を伝えたいだとか」など、Jポップのヒット曲にも使われています。

私は小学生の頃、椎名林檎「丸の内サディスティック」を聴き、今まで聴いたことのない色気と浮遊感に衝撃を受けました。この曲もJust the Two of Us進行の有名な曲の1つで、丸サ進行とも言われています。その衝撃以降、無意識に聴いている曲は、Just the Two of Us進行ばかりになりました。音楽ストリーミングサービスを使用するようになり、シャッフル機能で流れてきたイントロがそのコード進行であれば、すぐにダウンロードし、Just the Two of Us進行の曲のみのプレイリストを作るほどになりました。また、この進行は某音楽番組では、何も考えなくても、コードをループするだけで、心地の良い曲になってしまうことから、「劇薬コード進行」「ジゴロ進行」と称されていました。多くの曲に使われ、愛されているこの劇薬コード進行の魅力は一体何なのでしょうか。

楽器は幼い頃からしてきましたが、この進行の魅力を解明するほどの音楽知識は持ち合わせていません。そのため、音楽家によるコードの解説を、自分なりに咀嚼したものを紹介します。進行の基本形は「Ⅳ△7-Ⅲ7-Ⅵm7-Ⅴm7-I7」と表記されます。この進行の中には、「サブドミナント」、「ドミナントモーション」や「ツーファイブワン」などの音楽の機能が隠されています。まず、ノーマルな音から始まりますが、そこに不安定さが加えられます。その不安定から、一気に華やかな音に向かい、その間の揺らぎがこの進行のポイントであると考えられます。さらに、期待感を持たせ、進行に戻ります。このように、短い進行の間に、さまざまな表情の響きが含まれています。その響きが、Just the Two of Us進行の魅力の1つではないかと感じました。

「1曲から100曲へ」

Just the Two of Usやその進行の曲は、私が調べた中でも、100曲ほどありました。この進行はあまりにもメジャーですので、全作曲者がJust the Two of Usを意識して作ったわけではないと思いますが、その100曲には、コード進行という共通の要素があります。また、意図的にJust the Two of Usのフレーズを使用した曲もあり、その進行で有名なThe Isley Brothers「Between The Sheets」は多くのヒップホップアーティスト達にサンプリングされました。小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック」や、tofubeats「水星」も、さまざまなカバーバージョンがあることで、馴染み深いかと思います。

このように、40年という時が経っても、1曲でジャンルを越え、音楽は派生していくのです。森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』という映画化された小説に「本はつながっている」というセリフがあります。その後に、1冊の本について、その本に影響を与えた作家、その作家が尊敬した作家、その作家の本を日本で翻案した作家、と1冊の本からまた次の本へと繋がっていくというセリフに続きます。私は音楽も同じように、その1曲1曲は独立したものですが、1曲から100曲へと繋がっていると思います。

興味深いことに、星野源「うちで踊ろう」もJust the Two of Us進行なのです。本人が「色んな人が自由に演奏やダンスを重ねられる曲を」と作曲の経緯を説明したように、アーティストだけでなく、一般人もコラボ動画をSNS上に載せていて、音楽の繋がりを強く感じました。Just the Two of Usでなくとも、ましてや音楽でなくとも、自分の好きな1曲や1冊がどこに繋がっているのかを知ると、さらに深く文化を体験できるのではないでしょうか。

(5期生 おしゃ)

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