少し前に嵐が2020年で活動を休止すると発表したことが大きな話題となり、多くのファンが涙を流してインタビューに答える姿をテレビで見かけました。私の知り合いにもSNSで嵐の活動休止を嘆く人が多く見受けられましたが、皆様の周りにも「嵐ロス」に陥る人たちは多かったのではないでしょうか?それほど嵐というグループは大きな存在であったことをあらためて感じさせられます。
先述に「嵐ロス」とありましたが、最近この「○○ロス」という言葉を非常によく耳にします。今回はこの「○○ロス」について少し考えてみたいと思います。
「○○ロス」は、人気の芸能人やアイドルが引退・結婚した時や好きだったドラマが放送終了した時の喪失感を表す言葉として用いられます。ロスの語源は英語の”loss”(損失、失うこと、無駄に費やすこと)からきており、「ペットロス症候群」という言葉から使われたとされています。「ペットロス症候群」とは、ペットが死亡したり行方不明になったりした時に飼い主が陥る重度の心的障害のことであり、現在よく使われる「○○ロス」よりも深刻な意味合いを含んでいます。
現在の「○○ロス」がよく使われるようになったのは、2013年のNHKドラマ「あまちゃん」の終了を嘆く「あまロス」からです。この言葉は2013年流行語大賞にノミネートされました。そこからたくさんの「○○ロス」が生まれましたが、ある記事で検索ヒット数を元にしたランキングを見つけました。
10位 ひよっこロス 約20万件
9位 だいすけロス 約26万件
8位 わろてんかロス 約26万件
7位 あまロス 約34万件
6位 SMAPロス 約38万件
5位 政次ロス 約42万件
4位 逃げ恥ロス 約52万件
3位 福山ロス 約70万件
2位 みくりロス 約120万件
1位 安室ロス 約240万件
こうして見るとNHKの朝ドラや大河ドラマに関するロス、また特に男性に対するロスの種類が多いことが分かりますが、上位2名の女性へのロスが圧倒的であることも見逃せません。これは2018年2月の記事ですが、2019年2月現在、上位3件をYahoo検索のヒット数で調べると、福山ロスが180万件、みくりロスが約250万件、安室ロスが約700万件、ちなみに嵐ロスは約590万件でした。
では、なぜこのような「○○ロス」という現象が起きるのでしょうか?元々このような現象は昔からありましたが、メディアが名前を付けて話題にしているというのも一理あるでしょう。しかし、それは「インスタント・コミュニティ」の大量生産と崩壊のサイクルの中で生まれているといった見方もできます。
最近、特にネット上では「フラッシュモブ」的なコミュニティが数多く生まれています。フラッシュモブ的なコミュニティとは、興味の共有から集まった人々が突発的に集団を形成し、その興味の対象がなくなると解散するといった一時的なコミュニティのことを指します。このコミュニティ形成を助長しているのが商品の「ネタ消費」です。ネタ消費は、商品がSNSで拡散させるための話題として提供されるため、流行り廃りのサイクルが短く、市場の回転率を早めます。そのため様々な商品が大量に生産され、話題がなくなれば次の商品に取って代わられるといった形態が確立してきました。一時の話題を共有したコミュニティも、その話題がなくなれば消滅してしまいます。この持続性のないコミュニティの中で生まれた喪失感は、人々に新たな話題を持つコミュニティの形成を促す材料となるのです。このフラッシュモブ的なコミュニティの崩壊時に生まれる喪失感が「○○ロス」という言葉によって概念化されているように感じられます。「○○ロス」が生まれる原因は、商品のネタ消費で生まれる一時的なコミュニティの生産と崩壊の中にあるのかもしれません。
しかし、現在の○○ロスとは一線を画すロスがあると言われています。それがSMAPロスです。
SMAPロスとは、ジャニーズアイドルSMAPの解散から生じたロスですが、なぜこれが他のロスとは一線を画すのかというと、第一にファンのロスの深刻さが挙げられます。SMAPのファンの年齢層は30~50歳代女性がその多くを占めており、その活動期間は約30年という長いものであります。ファン自身も結婚や育児など人生の節目を経験して、年齢を重ねていくSMAPのメンバーを受け入れながら、5人の存在が日常の一部と化していたとファンは語ります。一部のファンは応援が依存のレベルまで達していることもあり、彼女たちにとってSMAPは生きる糧であり、働くモチベーションそのものであったと言っても過言ではありません。しかし、突然訪れた解散は、彼女たちにとって人生や身体の一部を引きちぎられたのと同じようなものでした。代替品がないのでその破片も捨てられず、どうしようもできない状態に陥ってしまいました。記者会見もライブも発表されない解散に、自分なりのけじめをつけようとするファンも出てきました。「解散は事務所の意向でメンバーの意思ではない」「解散撤回もありうる」「一時の活動休止にすぎない」といった真偽のわからない情報が出回り、ファン達は解散を納得させうるための材料を探し、僅かな希望を胸に生きてきたのです。
約30年かけて作られてきたコミュニティの唐突な崩壊はとてつもなく大きな喪失感を生み出しました。嵐ロスもこれに近いものがあるのではないかと考えられますが、2020年までの猶予とライブ公演の増加など、ファンに対する配慮を含めると、また違った見方ができるのかもしれません。
さて、今回は「○○ロス」という概念とそれにまつわる現象について話しましたが、私は卒論で概念(言葉)と現象の関係について研究したいと考えています。現代は様々な概念(言葉)が生まれ続けていますが、それにともなう現象、社会の反応はどういったものなのか。また現象が概念(言葉)を生み出すのか、概念(言葉)の誕生が現象を加速化させるのか。まだざっくりとしていますが日常の一部である概念を切り取って、研究につなげていけたらと思っています。皆さんも普段使っている言葉を振り返って、その言葉と現象の関係について少し考えてみてはいかがでしょうか?
(3期生 まえち)